家賃3〜5万円台が見つからない時の代替戦略
- 坪井 HaruNest
- 10月16日
- 読了時間: 8分
更新日:10月27日
~相場高騰時に効くエリア・築年数・間取りの再設計~

家賃相場の上昇が止まりません。
「3〜5万円台で住める物件が本当に見つからない」—
この言葉は、いまや多くの企業担当者や登録支援機関から聞かれるようになりました。
特に外国人社員を受け入れる現場では、住宅の確保が採用や定着の大きな壁になっています。
以前であれば、築年数が古くても家賃を抑えたアパートを容易に見つけることができました。しかし現在は、物件オーナーの変更などによる家賃上昇や、建て替え・取り壊しの進行によって、3〜5万円台の空室そのものが減っています。
結果として、
「条件に合う住まいがない」
「入居まで時間がかかる」
「支援工数が膨らむ」という悪循環が生まれています。
この状況を打開するには、“探し方”だけでなく“考え方”を変える必要があります。
相場の上昇を嘆くよりも、限られた条件の中で「どこを妥協し、どこを守るか」を明確にし、エリア・築年数・間取りを再設計することが鍵になります。
この記事では、家賃3〜5万円台の物件が見つからない時に使える代替戦略を、3つの視点から整理して解説します。
「市場の現実を知る」
「外国人入居者との条件調整を行う」
「再設計によって現実的な選択肢を見つける」。
この3つのステップを理解すれば、担当者が自信を持って住まい確保に臨むことができ、企業としても受け入れ体制を安定化させることができます。
第1章:相場高騰と3〜5万円台の現実
なぜ低家賃帯の物件が減っているのか

昨年あたりまでであれば、「家賃3〜5万円台」は東京でも比較的容易に見つかる価格帯でした。
しかし今年に入ったあたりから、この価格帯の物件は急速に減少しています。
背景には、オーナーの変更に伴う賃料の値上げ、建築コストの上昇、そして老朽物件の取り壊し・建て替えがあります。
特に築30年以上の木造アパートは、修繕コストや空室リスクを避けるために取り壊されるケースが多く、結果として安価な住居が市場から姿を消しています。
さらに、リノベーションによって付加価値が高まり、「3万円台→5万円台」へと価格帯が上昇しています。低家賃帯の減少は、単なる供給不足ではなく、経済構造の変化による必然といえるでしょう。
家賃相場の上昇要因と地域差の読み解き方

家賃上昇の要因は複数あります。
地方圏では、交通インフラの整備により都心アクセスが改善し、郊外の家賃も上昇傾向にあります。一方、都市部では在留外国人の増加により賃貸需要が拡大し、低家賃帯の物件が取り合いになっています。
さらに、物価上昇や金利変動による建築コストの増加も影響しています。このように、全国的に家賃上昇の「底上げ」が進んでいるのです。
企業担当者や登録支援機関は、地域相場を「全国平均」ではなく「沿線単位」で把握する視点を持つことが大切です。
都心から10km離れるだけで、家賃が1万円以上変わるケースも少なくありません。
賃貸市場の変化が企業と支援機関にもたらす影響

家賃の高騰は、外国人入居者だけでなく、企業や登録支援機関の業務全体にも深刻な影響を及ぼしています。従来の「3万円以内で部屋を確保する」というルールでは、もはや現状に対応できず、入居までの期間が長期化し、採用や配属のスケジュールに支障をきたすケースが増えています。
さらに、賃貸契約を外国人の本人名義で行っている企業も依然として多いものの、家賃上昇のために今後は個人名義での契約が一層難しくなり、保証会社の審査や不動産会社との調整にはさらに多くの時間と手間がかかることが予想されます。
こうした背景を踏まえると、今後は住居確保を外国人個人の責任に委ねるのではなく、企業側の「組織戦略」の一環として再構築することが不可欠です。受け入れ企業名義で社宅を手配し、住宅確保を人材受け入れ体制の一部として位置づけることが求められています。
第2章:理想と現実のギャップをどう伝えるか——担当者の交渉術
外国人入居希望者の“理想”を理解する

外国人の方が日本で住まいを探す際、多くの場合、「駅近・築年・家具付き・広さ・家賃3万円以下」といった点で理想を描きます。母国の住宅事情やSNSなどで見た“日本の暮らし”が、その期待を高めているのです。
しかし、現実の賃貸市場では特に都市部でその条件を満たす物件はほとんどありません。
担当者がまず行うべきことは、理想を否定するのではなく、「何を最も重視しているのか」を聞き出すことです。通勤の利便性なのか、家賃の安さなのか、快適さなのかを整理することで、譲れない条件が明確になります。
理想を理解することが、現実を共有するための第一歩です。
現実をどう伝えるか——「納得」を生む説明のコツ

担当者にとって難しいのは、希望と現実の差をどう伝えるかという点です。
単に「その条件では難しいです」と伝えても、相手は納得しません。
大切なのは、データと比較を用いて“見える形”で説明することです。
エリアごとの家賃相場を地図やグラフで提示し、「築年数を10年古くすれば、同じ家賃で広さが1.5倍になります」といった具体的な事例を示すことで、数字に説得力が生まれます。
現実を“制約”ではなく“選択肢”として示す姿勢が、信頼を築く鍵になります。交渉とは、押しつけではなく、共に条件を再構成するプロセスなのです。
妥協の設計——何を譲り、何を守るか

担当者の役割は、単に物件を探すことではありません。
条件を整理し、「何を譲り、何を守るか」を一緒に考えるパートナーであることです。
妥協の軸は、何を重視するかにもよりますが、例えば家賃を低く抑えたいのであれば、築年数・距離・広さ・階数・エリアの5つです。
この中で「築年数」などは比較的譲りやすい傾向があります。「築年数を少し古くすれば家賃が下がり、その分で家具を購入できます」といった具体的な提案を行うことで、妥協が“納得のある選択”に変わります。現実との調整は、説得ではなく協働のプロセスなのです。
第3章:再設計で見つける「現実的な選択肢」
エリア再考——郊外・バス便・地方都市の新たな価値

3〜4万円台の住居を確保するためには、まずエリアの見直しが欠かせません。
都心にこだわるほど選択肢は限られますが、郊外やバス便エリア、地方都市に目を向けることで、条件が大きく改善することがあります。
東京都心から電車で40〜50分離れるだけで、同じ家賃でも築年数が新しく広い物件が見つかることは珍しくありません。
企業の勤務形態や交通費補助制度を踏まえて、現実的な通勤圏を再定義することが重要です。郊外は“妥協”ではなく、“選択肢を広げる戦略”なのです。
築年数と建物タイプで探す「コスパ優先」物件

築古物件は、視点を変えると“掘り出し物”の宝庫です。
築30年以上でも、リノベーションや修繕がしっかり行われていれば、快適に暮らせる場合が多くあります。木造・鉄骨・RC(鉄筋コンクリート)といった構造によって遮音性や断熱性が異なるため、築年数だけで判断するのは適切ではありません。
木造アパートは家賃が抑えられるうえ、光熱費も低く済む傾向があります。
企業担当者や支援機関は、「築古=不便」という固定観念を捨て、管理状態や周辺環境を軸に物件を評価することが求められます。
古くても手入れの行き届いた物件こそ、コストパフォーマンスに優れた選択肢となります。
間取り・設備・共用条件を柔軟に見直す

限られた予算で住居を確保するには、間取りや設備に柔軟な発想を持つことが大切です。1Rや1Kだけでなく、シェアハウスやゲストハウスといった共用型住居も有効な選択肢になります。共用スペースを利用するタイプの物件は、初期費用を抑えつつ、家具や光熱費込みで生活を始められる点が魅力です。
外国人入居者にとっては、文化の違いから設備に関する誤解が生じやすいため、入居前に写真や動画で説明することが有効です。担当者が“現実的な快適さ”を提案することで、限られた予算でも満足度の高い住まいを実現できます。
まとめ:住居確保は“採用支援”ではなく“仕組みづくり”へ
家賃3〜4万円台の物件が見つかりにくい時代において、担当者が果たすべき役割は単なる物件探しではありません。 それは、企業や登録支援機関の立場から「現実を踏まえた仕組みを整えること」です。
相場の高騰はもはや一時的な現象ではなく、構造的な変化として定着しています。つまり、以前と同じ探し方・同じ予算・同じ社宅基準では対応できないということです。
エリアを広げ、築年数や間取りの基準を柔軟に再設計し、現場担当者がデータに基づいて入居者と調整できる体制を整えることこそが、今求められています。
住宅サポート体制を再設計することで、
外国人社員の入居までのリードタイムを短縮できる
審査や契約トラブルを防ぎ、定着率を向上させられる
現場対応の属人化を防ぎ、支援工数を削減できる
という明確な効果が生まれます。
住まいは、働く人の安心の土台であり、企業の信頼を支えるインフラです。 これからの時代、住宅確保は「採用の付属業務」ではなく、「人材受け入れの戦略領域」として捉える必要があります。
この記事が、皆さまの組織で住宅支援の仕組みを見直すきっかけとなり、より多くの外国人が安心して日本で生活できる環境づくりへとつながることを願っています。
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